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井垣孝之(弁護士/ブロックチェーンベンチャー/新事業創出・経営改革コンサルタント)。個人が、チームを変え、組織を変え、社会を変えるために必要な物事の考え方や、役立つ情報をまとめるブログです。

経営者が緊急事態宣言をチャンスに変えるマインドセットと3つの方策

新型コロナウイルスによる自粛が本格化して1月。いよいよ新型インフルエンザ特措法に基づく緊急事態宣言が発令されました。

 

私は自らの弁護士業や経営コンサルタント業を含め、6つの事業の経営に携わっており、クライアントも含めるとかなり多くの業界の危機的な状況や、大きな変化を肌で感じています。

 

大企業の多くは、原則として出張を禁止しています。上長の許可がなければ、従業員は会社に来ることができないという会社もあります。外からの訪問も一切受け付けないというところもあります。3月の売上が半減、いやほとんどなくなったというところもザラです。普段はお願いしてもほとんど変更に応じてくれない裁判所の期日も、4月分は多くが延期になったようです。

 

しかし、経営者は、事業を継続させるために、ただ新型コロナウイルスに振り回されているのではなく、この危機的状況をチャンスに変えねばなりません。その方法は、企業によって様々ですが、この記事では、緊急事態宣言によって何が変わるか、コロナ危機・緊急事態宣言をチャンスに変えるための経営者のマインドセット、そして3つの方策をご紹介したいと思います。

 

緊急事態宣言によって何が変わるか?

 

結論から申し上げると、特措法に基づく緊急事態宣言は、直接的には3月以降の自粛要請とほぼ内容は変わりません。変わることといえば、不動産や物資の強制使用や保管を命ずることができるようになるだけです。

 

特定物資の保管命令と立入検査の拒絶等についてのみ、罰則があります。それ以外は、従前どおり単なる「政府・自治体からのお願い」を超えるものではないのです。

 

よく「ロックダウン」という言葉が話題に上がりますが、海外で行われているような都市封鎖は、日本ではできません。緊急事態宣言は、上述のとおりほぼ強制力はありませんし、唯一移動制限を設けられる感染症法の規定も、極めて限定的だからです。

 

感染症法33条は、72時間以内に限り、罰則付きで、最小限度の建物への立ち入り制限や交通遮断ができることとしています。新型コロナウイルスにもこの条項を適用できることとなりましたが、時間と場所の制約が厳しいため、私はほぼ発動はされないだろうと考えています。

 

以上のとおり、緊急事態宣言は、3月以降の自粛要請から、何かを大きく変えるものではありません。逆に、大きく変わらないがゆえに、経営的には難しい問題が発生します。なぜなら、法的拘束力を持つ形で事業を休止せざるを得ない場合でなければ、国からの損失補償はなされないからです。

 

すなわち、緊急事態宣言が発令され、自粛要請が出されても、事業活動は「法的には」何も制約されないために、休業補償はなされません。また、仮に自主的に休業しても、労働基準法26条に定める60%以上の休業手当の支払義務を免れない可能性が高いです。

 

緊急事態宣言が発令されれば、心理的には多くの人はより一層、活動を自粛する方向に動くでしょうから、会社経営はさらに厳しくなることが容易に想定されます。そんなときに、経営者はどんなマインドを持っておくべきか、私の考えをご紹介したいと思います。

 

緊急事態宣言をチャンスに変えるための経営者のマインドセット

大きな変化が起きると、何が起きるかを、一歩引いた視点から観察する

最近ではコロナ危機だけでなく、東日本大震災リーマンショックなど、大きな変化が起きました。そのようなときに私がしていることは、単に売上が下がるとか、お客さんが来なくなる、ニュースに右往左往する人が増えるといった表面的な事象ではなく、自分やクライアントのビジネスの構成要素にどのような影響があるかを全部洗い出すことです。

 

具体的には、自社のサービス・商品の仕入先、事業を提供する自社体制、顧客の動向を中心として、どこにどのような影響があるかを観察します(緊急の対応の必要がある場合はその対応をします)。ポイントは、浮き足立つのではなく、客観的な事実として冷静に起こった/起こりうる変化と、その原因を把握するということです。

 

緊急を要する対応は別として、危機的な状況下で冷静に情報収集をし、観察するということをせずに場当たり的な対応をしてしまうと、危機がさらに拡大したり、危機が去った後に大問題が起こることがあります。

 

まずは徹底的に情報収集し、観察することが重要です。

 

経営者が、ピンチをチャンスに変えるという意志を持つ

 

情報収集し、観察を終えた経営者が次にすべきことは、具体的に何をすべきかわからなくとも、危機的状況をチャンスに変えるという意志を持つことです。

 

FXや株式をしたことがある方はおわかりだと思いますが、こういった投資は、相場が動かないとほとんど利益を出すことはできません(損失も出ません)。大きな利益(損失)が出るのは、相場が大きく動くときです。

 

経営において、社会に大きな変化が起きるときは、大きな損失も発生しますが、必ず新たなニーズやチャンスが発生します。それらにできるだけ早く対応すると、大きなチャンスを生み出すことができます。変化をよく観察して、自らのビジネスの何を変え、何を変えてはいけないかを見極め、変えるべきところは直ちに変えてみるという意志を持つことが極めて重要だと思います。

 

 

以上を踏まえて、どんな方策を取るべきかをご紹介します。

 

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方策①:ぜい肉を落とし、筋肉をつける経営改革に注力する

 

コロナ危機のような危機的状況をチャンスに変える 1つの方法として、危機的状況を活用して一気に経営改革を進めてしまうということが考えられます。

 

コロナ危機のような状況では、多くの業界で顧客が減り、それに伴って業務量が減ります。このときに闇雲に利益を維持しようと努力すると、現場の従業員を危険に晒し、余計に損害を拡大させてしまいます。

 

今の状況は、会社の上から下まで危機意識を共有できていることが多いので、この機会を利用して一気に無駄な業務を削り落とし、このような状況でも利益を出せるような組織体質に変えてしまうことが極めて重要です。むしろ、これだけをやればいいと言っても過言ではありません。

 

今は、会社の上から下まで危機意識が共有されていることが多いため、平時ではできないような改革や、アンタッチャブルな聖域にも踏み込むことができます。

 

ただし、今までできなかったような改革をやるには、従業員に働き続ける安心感があることが大前提として必要になります。事業者には従業員の安全配慮義務がありますので、従業員及びその家族の健康を第一に考えてください。そして、そのように考えることは、そのまま方策②と方策③をスムーズに行うことにつながります。

 

方策②:オペレーションのデジタル化を徹底的に進める

 

業務の無駄を削ぎ落とす1つの形として、デジタルトランスフォーメーションを進めるという方向性も十分あります。在宅勤務も1つの形ですが、いろんな方向性があります。

 

私のクライアントで、よく客先に商談に行く方がいるのですが、地方のため、自社から客先への移動に結構時間がかかり、他の業務ができない方がいました。コロナ危機をきっかけとして、商談をすべてオンラインミーティングに変更した結果、移動時間がなくなって今までフォローできていなかった顧客へのコンタクトもできるようになり、売上が倍以上に上がったそうです。

 

商談のオンライン化は移動のデジタル化と言えますが、それ以外にも紙の処理や手作業といった要素は、多くがデジタル化が可能です。これまでは顧客や既存の従業員に遠慮してできなかったことも、今であればできますので、今のうちにオペレーションをデジタル化してしまいましょう。この機会に外注してしまうというのもありです。

 

なお、私の法律事務所は、電話・FAX等の通信インフラは、すべて事務所外でも完全に使えるようになっているため、数年前から事務所に行かなくても仕事ができるようになっています。また、業務を徹底的に効率化したため、事務員がなくても回ってしまう状態なので、コロナ危機の対応は、単に事務所に行かないようにする、というだけで済んでいます。

 

方策③:危機対応のための融資・助成金を使い倒す

 

コロナ危機では、かつてないほどの大型の融資や助成金が使えるようになっています(参考:経産省のまとめ)。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

 

たくさんあるので迷われるかもしれませんが、多くの経営者が真っ先に活用を検討すべきなのは、雇用調整助成金です。これは、事業者が一時的に休業をする場合には従業員に対して休業手当を支払わねばならないところ、整理解雇を防いで雇用を維持するために、国が休業手当の一部を補償するというものです。

 

現時点において、次のような特例が認められる予定です(参考:厚労省サイト)。

  • 休業の計画届では事前提出→6月末まで事後提出=今すぐ休業させても助成あり
  • 生産指標要件が3か月10%以上低下→1か月5%以上低下
  • 対象者は雇用保険被保険者のみ→被保険者以外(=パート等)も対象
  • 助成率は2/3(中小)・1/2(大企業)→解雇等を行わなければ9/10(中小)・3/4(大企業)
  • 支給限度日数は1年100日まで→4月1日から6月30日まではノーカウント

 

ところで、雇用調整助成金は、休業した場合の従業員の給与を全額補償するわけではなく、休業を実施した場合に事業者が支払う休業手当(給与の60%~100%)に、助成率をかけた金額が対象となり、1日あたり8330円が上限となります。

 

たとえば、手当を含んだ総支給額が月額30万円の場合、休業手当(60%の場合)*1は24万円、所定労働日数が月20日であれば、1日あたり12,000円です。これに助成率0.9(中小企業)をかけると、10,800円となりますが、上限が8,330円なので、休業すると8,330円に休業した日数分が支払われることになります。総支給額が大体31万円を超えると、上限に引っかかります*2

 

雇用調整助成金を使うと、事業者が休業させたとしても、休業手当の10%(+上限を超えた金額)しか事業者は負担しないことになります。上記の月額40万円の例だと、1月丸ごと休業した場合、事業者の負担額は、月額73,400円と、約32万円の減少になります*3

 

これを使うと何ができるかというと、単にお客さんが減ったから休業する場合だけでなく、あえて従業員の休みを増やし、より少ない人数でオペレーションを回すなどにより、従業員の負担を減らしながら業務改革を進めるということができるということです。たとえば、あえて週休2日を週休3日にし、少ない人員でも回せるようにオペレーションを考え直すということができます。

 

雇用調整助成金を利用した戦略的な休業は、贅肉を削ぎ落として体力をつけるのにもってこいの施策です。休業計画は後で提出で大丈夫になりましたし、丸一日休業するのではなく、平日は普通に営業して人数だけ減らすというときにも使えるので、従業員がいる経営者は、今すぐに休業計画を立ててください。

 

まとめ

 

危機的状況下では、まず事態をよく観察し、いかにチャンスに変えることができるかを考え、ぜい肉を削ぎ落として筋肉をつければ、今後の事業の継続・発展につなげることができます。口でいうほど簡単ではありませんが、みんなでこの危機を乗り越えていきましょう!

 

後払い式・経営者向け経営・法律相談サービスのお知らせ

 

緊急事態宣言を受けて私も何かできないかと考え、経営者の方向けに、法律問題だけでなく経営関係の相談全般について相談をお受けするサービスを始めました。

 

コロナ危機に関係することでも関係ないことでも、お気軽にご相談ください。私は弁護士ではありますが、複数の事業の立ち上げ経験があり、普段は新規事業創出コンサルティングをしておりますので、法律問題以外にも、どうやったらこのピンチをチャンスに変えられるか、どんな経営改革をすべきか、資金繰りはどうしたらいいかといった相談にも対応可能です。

 

ご相談は、最初はメールで、詳しくお聞きしたほうが良ければ別途日程調整の上でオンラインミーティングの形でさせていただこうと思っています。

 

費用については無料でもいいかと思ったのですが、以前無料相談をしたときに、あまりにたくさんのご相談を頂いたため、今回は相談1件あたり11,000円(税込)としています。時間制限や回数制限は特に設けませんので、同じ内容であれば何度でもご相談が可能です。

 

ただし、費用は相談前にお支払いいただく必要はありません。実際にご相談いただいて、ご満足いただけたらお支払いいただく形で結構です。支払い方法は相談後にご案内します。

 

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いずれかの方法でご相談いただいた方には、原則として12時間以内に井垣よりご連絡差し上げます。お待ちしております。

 

*1:なお、休業手当を100%払わねばならないか、60%でいいか、払わなくてもいいかはケースバイケースです。具体的に検討したい方は、経営者向け経営・法律相談サービスをご利用ください。また、失業手当を100%にした場合に、雇用調整助成金の計算上も100%で支給されるかはまだ不確定のようです。

*2:実際に計算する場合は、休業対象者の総支給額の平均を使うので、給与が低い人を休業させると上限に引っかかりにくくなります。

*3:40万円×0.6-(8330円×20日)))。これにより、人件費を大幅に抑えることができます((ただし、実際に雇用調整助成金の給付を受けられるのは数カ月先になるので、それまでの資金繰りは融資でまかなうようにしてください。