私は普段、弁護士と経営コンサルタントという、一応プロフェッショナルと呼ばれる仕事をしています。今日は、自分の仕事の価値をなかなか理解してもらえないということについて書こうと思います。
プロフェッショナルの仕事は、費用が高いと思われがち
プロの仕事というのは専門性が高く、クライアントはその専門性による問題解決を求めて依頼するわけですから、その情報格差ゆえに仕事内容がクライアントに理解されないのはある意味当然です。しかし、仕事の価値をクライアントに理解してもらえないと、お互いに不幸な状態に陥ることがあります。
たとえば、その結果起きがちなのが「費用/報酬が高い」というクレームの発生です。私は幸いほとんど依頼者から言われたことはないのですが、「弁護士費用は高い」という印象は多くの方がお持ちなのではないでしょうか。*1
弁護士費用が高いと思われる理由は大きく3つあると思っています。
- 弁護士費用は数十万円~という金額になるため、絶対的に払えない
- 問題解決のために弁護士が提供するサービスの意味内容が理解されていない
- クライアントが抱えている問題の深刻さが理解されていない
1点目は弁護士であれば法テラスを利用するという方法がありますが、2点目と3点目の問題は、プロフェッショナルがその仕事の価値を理解してもらうことによって解決すべき話だと考えています。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらう工夫①
まず2点目の問題です。おそらく多くの方は、ある事件を解決に導くために弁護士がどんな仕事をしているか、ということはご存じないと思います。テレビドラマのイメージだと、弁護士はよく法廷に行っているように思うかもしれません。しかし、実際には、尋問の場合を除けば、弁護士が法廷に滞在するのは短ければ5分、長くても30分程度です。
むしろ事務所での作業や電話対応、現場の視察といったことをやる時間の方が圧倒的に長く、大変です。クライアントに有利な結論を導くため、徹底的に判例や書籍を調べたり、よくわかっている人に聞きに行ったりすることもします。
こういった作業をしていることをクライアントに伝えることは、特にいい結果が出せずに終わった場合に意味があります。仮に頑張っていても、それを伝えていなければ、クライアントにとっては何もやっていないのと同じです。「大した仕事をしていない」と思われても仕方ありません。
したがって、これ見よがしに「これだけやってるんだぜ」と言うのはどうかと思いますが、継続的に進捗報告することは、思った以上に大切です。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらう工夫②
次に3点目の問題です。クライアントが抱えている問題の深刻さを、クライアント自身がよくわかっていないことはままあります。困ってはいるんだけれど、どれくらい困ったことになるのかはよくわかっていないという状態です。
クライアントが抱えている問題の深刻さを理解するためには、何らかの専門性に基づいてその問題を評価する必要があります。しかし、その評価は専門性がないとできないので、プロフェッショナルが評価をしなければ、適切に理解できないのは仕方ありません。
しかし、プロフェッショナル側も、往々にして解決策の話をすぐにしてしまうため、問題の深刻さを掘り下げるということはあまりやらなかったりします。これは、ソリューション営業をやっている方であればおわかりになると思いますが、ニード喚起をせずにいきなりソリューションの提案をしているのと同じ話です。問題解決に対するニードを十分に引き出していないとソリューションの価値が理解されないため、費用が高く感じられるし、クロージングもできないという構造になってしまいます。
したがって、プロフェッショナルのサービスを提供する前に、きちんとクライアントの抱えている問題について正確に理解してもらい、それを解決したいという意思をもってもらうということは非常に重要です。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらう工夫③
プロフェッショナルの仕事の内容は理解できなくとも、その仕事のビフォー・アフターをクライアントにイメージしてもらうことはできます。
たとえば、ロゴのデザインです。私はデザインについては詳しくないのですが、一度事務所の文字のロゴをデザインしてもらったときに、その仕事の過程を見せてもらいました。普通に事務所名を表示するだけのロゴなのですが、文字の間隔を1つずつ0.1mm単位で調整していました。「なんでそんなことをやるのだろう?」と思ったのですが、それをやった状態とやらない状態を見せてもらったところ、まったく見栄えが違ったのです。
素人考えで、事務所名のロゴなんて普通にフォントだけ選んで文字を打てばいいと思っていたのですが、そういった微調整で結果が全然変わったのを目の当たりにして、大いにデザインのプロフェッショナルの仕事の評価を改めたことがあります。
常にビフォー・アフターをクライアントに見せられるとは限りませんが、できる限り見せた方が理解はしてもらいやすいと思います。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらう工夫④
仕事が終わったときに、仕事の成果の意味合いをクライアントにお伝えすることも大切です。
たとえば弁護士業で言えば、和解で終わったときに、この和解の内容が妥当なのかそうでないのか、クライアントにとってどのような意味合いを持つのかということは、前述の情報格差があるためにクライアントは判断できないことがあります。
また、そもそもプロフェッショナルの仕事を提供する場合、クライアントには意思決定がつきものです。「この人に依頼してよかったのか」ら始まり、「この結果で良かったのか」という、自らの意思決定に対する不安を常に持っています。その不安に対して、プロフェッショナル側がきちんとフォローして、意思決定の意味をご理解いただくということはとても大切です。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらう工夫⑤
それ以外の工夫として、説明を尽くしてもまだ費用が高い、問題解決に前向きにならない方は、いっそのことこちらから断るということも大切です。プロフェッショナルの仕事をしていても、経験が浅いとつい値下げして安請け合いしてしまうことがあります。
しかし、プロフェッショナルの仕事を値下げするということは、自分の仕事の価値がそれだけ低いということを自分で認めるのと同義です。また、同じ仕事をしているのに安い報酬しかもらわないわけですから、相対的に高い報酬を払ってくれている他のクライアントに失礼です。それならいっそ、仕事を受けること自体をやめるべきです。
自分の仕事の価値を理解してもらえない人は、クライアントにしない勇気が大切です。
プロフェッショナルの仕事の価値を理解してもらうための5つの工夫
私が自分の仕事の価値を理解してもらうために実践していることをまとめると、次のとおりです。
- 仕事の作業内容をクライアントにこまめに報告する
- 事前にクライアントの問題を正確に理解してもらい、問題解決へのニードを喚起する
- クライアントにビフォー・アフターのイメージを持ってもらう
- クライアントの意思決定の意味合いを理解してもらう
- 説明を尽くしても仕事の価値を理解してもらえないクライアントの仕事はしない
少なくともこの5点は、弁護士の仕事をするときも、経営コンサルタントの仕事をするときも常に心がけている内容です。
他に仕事の価値を理解するための工夫をされている方は、ぜひはてなブックマークやコメント欄で教えてください。
*1:ちなみに、法律関係のトラブルの解決を弁護士以外に依頼すると、多くの場合、その方が高い代償を支払うことになります。また、広告宣伝に多くの費用を割いている法律事務所以外は、どこもあまり費用は変わりません。