一昨日、ビッグサイトで今日まで行われている国際物流総合展に行ってきました。
私自身は、物流業界についてはあまり詳しくないのですが、ブロックチェーンとの関係で物流は相性がいいため、業界の最前線はどんな感じだろうと思ってヒアリングした内容をご紹介します。
全体の印象としては、物流業界は、なんせ人不足なので、業界のホットなテーマはいかに倉庫内の業務効率化ができるか、というところにあったというところです。
大手ベンダーを中心に回ったので、展示テーマと、各ブースで20分ほどヒアリングをさせてもらった内容を順番に書いていきます。なお、展示テーマは、私が興味を持ったものをメモしたものなので、全部は網羅しておらず、正確な内容ではありません。
NEC
展示テーマ
- 需要予測に基づく需給の最適化
- 通関業務の効率化
- 画像認識とIoT活用した倉庫管理
- 倉庫内の自立運搬型ロボット
担当者コメント(需要予測に基づく需給の最適化)
「食品ロスの削減」というテーマで、メーカー、卸、小売の需給予測プラットフォームを作っている。食品業界をテーマに設定したのは、NECには食品業界のクライアントが多いから。会社としては、まずは食品業界でプラットフォームを作り、その後、業界ごとにエコシステムを作っていく戦略をとっている。現在、需給の最適化ソリューションについては、メーカーと小売りがそれぞれクライアントとして既にいる。
現状の課題は、卸からの購買データが入手できない点。卸にとってはデータが価値の源泉なので、絶対に出さない。他方、小売のPOSデータは購入することができるので、NECで買ってプラットフォームで活用したりしている。
ただ、実証実験で、小売のPOSデータを活用すれば、卸の業務効率化ができることはわかっているので、メーカーと小売、卸と小売という組み合わせでプラットフォームに巻き込んでいけば、全体最適が実現できるかもしれないとは考えている。
ブロックチェーン技術の応用については、まだ社内で検討中で、物流に適用するという話は下りてきていない。
富士通
展示テーマ
- AIを使った配車の最適化
- 倉庫作業者のシフト最適化
- 自動ピッキングロボット
- 自動棚卸
担当者コメント(全体)
(「富士通は、物流全体の効率化ソリューションはやっていないのか?」という質問に対して)
物流全体の効率化は、やってないわけではないが、現場のニーズは人不足に起因する効率化が多いのと、コンセプト的な展示にはあまり引き合いがないため、展示していない。
東芝テック
展示テーマ
- 什器のRFID管理システム
- ビーコン屋内位置測位システム
- 荷役ソリューション(いつ誰がどの作業をしたかを自動で記録)
担当者コメント(什器のRFID管理システム)
RFIDは今は7〜8円くらい。RFIDは特に棚卸しに効く。まだ高いため、重要な書類、ブランド品、宝石などの高価品からは引き合いがあるが、大量製造品へのRFIDはなかなか導入が進まない。
ブロックチェーンを含めた物流全体のマネジメントシステムを導入するには、やはり最上流が物流全体のマネジメントをしようとする意識がないと始まらない。また、データの開示範囲をどうするか、最終的な荷受け先の個人情報など、ステークホルダー間での協議がなかなかまとまらない。そもそも、今のSCMシステムでできるトレーサビリティで十分で、ブロックチェーンを導入するメリットがあまりない。
WMS(倉庫管理システム)は、必要な部分と必要ない部分がある。製造業や棚卸しが必要なものにはWMSを使うが、それ以外の什器などはWMSを入れてまでやる必要がないため、別途管理システムが必要なので、東芝はそこをやっている。
東芝としては、グループ会社内で物流の最適化をやろうとしているが、RFIDを用いた管理も一つの事業所内で完結しており、業界全体に展開しようという動きはまだ先。
日立ソリューションズ
展示テーマ
担当者コメント(サプライチェーン最適化の意思決定支援)
サプライチェーンにおける拠点の配置と供給量を月次で最適化する意思決定支援システム。現在あるサプライチェーンデータをもとに、最も効率的な物流計画を作る。これをやっているのは日立のみ。
ブロックチェーンに関しては、日立製作所本体でまだ実験している段階で、業界的に導入するという動きはない。提案する側としては、生産地の認証などはブロックチェーンを使った方が楽。ただ、メーカーがやるより、国などの第三者が物流における取引を記録するプラットフォームを作る方が導入が進むのではないか。自動車業などが導入しないと、導入は進まないと思う。
日通
展示テーマ
- 倉庫内業務及びサプライチェーン全体の最適化
担当者コメント
ブロックチェーンは、まだ社内でも検討を始めたばかりで、何かやろうとしている状況ではない。
日通はオペレーションが強みなので、特に海外で日本品質のサプライチェーンを構築することができる。海外だと現地の業者に丸投げしてることが多く、事故が起きがち。ただし、引き合いが多いわけではない。
総括
ブロックチェーン技術とサプライチェーンは相性がいいため、ブロックチェーン技術を用いたソリューションに関する展示は少しはあるかと期待して行ったのですが、1つもありませんでした。とりあえず人不足を何とかしてからでないと新しいことはできないでしょうから、大手ベンダーが、サプライチェーンにおいてブロックチェーン導入を本格的に始めるのは、数年先かもしれません。
また、大手ベンダーは、既存のSCM(サプライチェーンマネジメントシステム)を運用しているため、これでトレーサビリティなどは確保できているので、逆にブロックチェーン技術を用いたシステムの導入というのは難しいのではないかと思います。業界的にも、既存のシステムを置き換えるだけのメリットを見いだせないと、なかなか採用には動けないのではないでしょうか。
他方で、まだSCMやWMSが導入されていない分野(特に紙で管理している分野)であれば、ブロックチェーン技術を用いたSCMの構築はできると思います。この分野で、既に本格導入を進めているのが、IBMが主体となって進めている国際貿易プラットフォームのTradelensです。30種類以上のステークホルダーを巻き込み、紙で管理されている貿易業務をブロックチェーン技術で管理するプラットフォームを構築しつつあります。
ブロックチェーンを用いたサプライチェーンができると、最上流からリアルタイムで実需要量を把握できたり、最下流から実在庫の所在と数量を把握できたりするようになるので、全体最適が一気に進むと思うのですが、まだまだ先は長そうですね。先に他の国で導入され、物流コストが下がってしまうと、関税をかけても太刀打ちできなくなるので、日本も早めに動いた方がいいと思って、私もいろんな会社にご提案しています(が、なかなか日本企業は反応してくれません・・・)。