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井垣孝之(弁護士/ブロックチェーンベンチャー/新事業創出・経営改革コンサルタント)。個人が、チームを変え、組織を変え、社会を変えるために必要な物事の考え方や、役立つ情報をまとめるブログです。

部下にいいアドバイスをするために重要な「アドバイスをしない」技術

どこの会社でも、30〜40代のマネージャーの方は、部下のマネジメントには苦労しています。言うことを聞いてくれない、やる気がない、意図していないことをやる、なかなか成果が出せない・・・マネジメントの問題は尽きません。

 

ただ、マネージャー自身にとっても、会社にとっても、人材というリソースを使って成果を出すことの重要性はますます強くなっていますし、個人がチームを率いてどんどん社会を変化させていくという方向性においても、メンバーに対して適切にフィードバックして成長してもらうことは極めて重要です。

 

そこで、今回は、自戒も込めつつ、仕事でうまく成果を出せないとか、仕事が遅いといった問題を抱える部下に対して、どうアドバイスしたらいいか、私の経験も踏まえて書いてみたいと思います。

 

技術①:「部下にアドバイスしてあげよう」という意識を捨てる

 

部下が仕事で問題を抱えていると、「アドバイスしてあげよう」「自分が問題を解決してあげよう」というマネージャーがおられます。

 

以前、管理職向けのワークショップを開催した際に、こんなことがありました。「期限までに仕事が終わらない部下の話を聞く」というテーマで、上司役、部下役、オブザーバーの3つの役割分担でロールプレイをしたのですが、そこで象徴的なシーンがありました。普段上司をされている方が上司役、人数が足りないチームに入った私が部下役をやったときのことです。

 

ワークショップでは、事前に「上司役の人は、部下役の人の話を聞いてあげてください。9:1の割合で、9聞いて1話してください」という指示がありました。

 

しかし、いざロールプレイが始まると、上司役の方はまず部下役の私に「なんで期限までに仕事が終わらないんですか?」と質問して、私が10秒ほど答えた後、上司役の方はひたすらアドバイスをしてくれました。私が話したのが1、上司役の方の話が9くらいの割合だったでしょうか。

 

上司役の方は、部下役の私のために良かれと思っていろいろアドバイスをしてくださったのだと思います。その気持ちはよくわかるのですが、このような話の仕方をされると、部下は「この人に話をしても、聞いてくれないな」という印象しか持ちません。または、「自分は部下なんだから、黙って上司のことを聞かないといけないんだ」というモードに入ってしまいます。

 

一旦そういう状態になると、部下は上司にどんどん話をしなくなるし、情報を共有しなくなります。つまり、良かれと思ってやっている上司の態度が、問題を大きくするし、その原因が上司にあることに、上司も部下もどっちも気づかないということになってしまうのです。

 

こうならないためには、どんなときでも上司が部下に「アドバイスをしてあげよう」という姿勢を一切捨てることが非常に重要です。「アドバイスをしてあげよう」と思うと、相手の話に傾聴するということができず、きちんと話を聞くことができません。

 

問題解決したいのであれば、まずは解決しようという意気込みを捨てる、一見矛盾するようなスタンスを守ることがとても大切です。

 

技術②:アドバイスをするための時間を前半と後半で分ける

 

技術①で書いたエピソードでもわかるように、「上司1:部下9の割合で話を聞いてください」とお伝えしても、多くの方はできません。

 

話を聞けない上司というのはどういうことかは、実際に文章化されたものを見られるとわかりやすいと思います。他のサイトでいい例があったので引用します。芦屋が上司で、坂本が部下です。内容はさておき、上司と部下の話している内容の分量にご注目ください。

 

 

芦屋: 坂本,5つのアドバイスをする前に理解しておいてほしいことがある。それは,仕事のやり方には「よいやり方」と「平凡なやり方」があるということだよ。

坂本: そうですね・・・よいやり方とは「効率的」,「工夫」,「ノウハウ」,「テクニック」,「秘伝」という感じでしょうか。芦屋さんがいつも言っているような。

芦屋: そう。君には平凡な仕事のやり方ではなくて,よいやり方を絶えず探していく努力をしてほしい。闇雲に頑張るのではなく,工夫をしてほしいんだ・・・無駄な努力という言葉はあるが,無駄な工夫という言葉はない。

坂本: はい。

芦屋: 抽象的な言い方で悪いが,要はすべてにはノウハウがあるということだよ。それを他人に教えるのが教育であり,育てるということ・・・そして,この中で難しいのが非技術系のスキルを教えるということなんだよ。これを理解しておいてほしい。

坂本: 非技術系のスキルが難しい?

芦屋: そう。部下マネージメントに限らないのだけど,いわゆる「ヒューマンスキル」,「コミュニケーションスキル」は,技術系のそれと違い「誰でも見よう見みまねでできてしまう」という辛い特徴があるんだ。これが仕事能力が上がらないことの一つの原因となっている。例えば,「コミュニケーション能力」というものを考えてみよう。人と会話できない人はほとんどいない・・・誰でも人と話せるし,話し合いができるんだ。同じように,誰でも文書を書くことができ,誰でも部下と一緒に仕事をすることができる・・・ただ,それが上手くできているかは別問題だけどね。

坂本: そうですね。

芦屋: 経験が豊富な,優秀な人が見れば,平凡なコミュニケーションやマネージメントと素晴らしいコミュニケーションやマネージメントの違いは歴然だ。でも,どんな組織にもその差が分かる人がいるわけではないんだ。この結果,非技術系のスキルは向上することなく,いつまでも平凡なものになってしまう可能性が高い。僕はそんな人や組織を数多く見てきたよ。

坂本: 確かに,技術系の教育は一生懸命やるけど,非技術系の教育はあまりやりませんよね。「本人が頑張るしかない」みたいな話が多いですよね。

芦屋: そう。それが問題なんだ。誰でもできるからこそ,上手くできていないことに気づかない・・・これが,非技術系能力の辛いところなんだよ。一方,技術系の知識がなかったり,スキルが身についていなければ何もできない。何もできないなら害はないのだけど,なまじできてしまうと害になる場合が多いんだ。だからこそ,非技術系で大事なのは,「よい方法を知り,それを他人に上手く教える」ことができることなんだ。だから,まず,「多くのノウハウ,テクニックを知ること」,そして,同じくらい「教える技術を知ること」が重要になる。部下ができれば,ますます教える技術が必要になることは分かると思う。

坂本: まず,「多くのノウハウを知る,そして教える技術を知る」ことですか。

芦屋: そう。それらを踏まえて5つのアドバイスをしていくよ。まず,
(1)部下を便利な作業者と思ってはいけない。あくまで自分で考えて,自分の責任で部下に任せなくてはならない。
これは,どういうことか分かるか?

坂本: 前回聞いた「丸投げ」禁止の話ですよね。

芦屋: そう。部下の仕事は絶えず理解しておかなくてはならない。自分の能力向上のため,部下が困ったときに助けるために自分で考えて部下に任せる。責任は上司が取る。これが重要だよ。

坂本: それが正論だとは思うのですが,忙しくてすべてがまわらないことも多いのでは。理想論という気もしますがどうですかね・・・

芦屋: まあ,そういう意見もあるな。でもこれだけは覚えておいてほしい。部下の不手際は上司の責任と見なされるから,部下にさせていた仕事で問題が発生したとき,「部下がやっていたので私はあまり・・・」と言ったら君の評判は失墜し,評価は落ちるよ。

坂本: ・・・

芦屋: まあ,逆に言えば,部下に丸投げしている他部門の上司を責める理由に使えるけどな。坂本,会社は怖いぞ。いろんなところで責める理由を探している人もいる。後ろ指さされないように行動したほうがいい。

坂本: 怖いな・・・。

芦屋: では次,
(2)短い期間でも放っておいてはいけない。報告,相談,連絡を密にしなくてはならない。
部下は思うように動いてくれないと考えてほしい。「指示したからできるだろう?」では絶対にイメージ通りに動けないものだよ。

坂本: そういうものでしょうか?ある程度経験がある部下ならば,説明すれば,それなりに自分のイメージ通りにできるのでは?

芦屋: 甘いな,坂本。君だって僕のイメージ通りには動けない。でもそれは他人だから当たり前なんだ。ただ,上司としては仕事の完成イメージをあわせたい。そこで,君になんとか僕のイメージ通りに動いてもらえるように,僕は毎日何回も君と会話をしているんだよ。上司と部下は他人。だからそのままでは仕事のイメージは一致しないんだ。でも,イメージを一致させることは可能だ・・・それは,一緒に完成させた仕事を増やすことだ。完成させた仕事が多くなってくると,上司と部下のイメージは一致しやすくなる。最近,岡田や君に僕が「あのときのやり方だ」とか「東さんを説得したときの話法で」とか言っても通じるのは,完成した仕事の数が増えて,それらの仕事イメージを共有化できているからさ。

坂本: なるほど,上司と部下の息が合っているとは,そういうことなのでしょうね。

芦屋: そう。そういうこと。「過去に一緒に完成した仕事を多くもつほど,将来の仕事のイメージも合うようになる」ということなんだ。だから,この状態になるまでは,毎日少しの時間でもいいから,定期的に会話をすること。これをしないと,とんでもない仕事の結果がでてくるんだ。

坂本: そういうことですか・・・

芦屋: 3つ目は,
(3)部下とのルールを決めなくてはならない。
君や岡田ともこれは実施しているのだけど,「部下と上司はルールを共有化しなくてはならない」。例えば,「文章の書き方は主張と理由をセットにしてほしい。無駄な修飾語はいらない」,「報告は結論から」,「問題は事象と影響と解決策をセットで説明してほしい」などだ。これを先にルール化して,上司から部下にお願いしておいたほうがいい。これを守らなければ注意する。決めたルールに違反したのだから,注意しても「すみません」となるんだよ。でも,ルールがなくて,場当たり的に注意すると,部下は何が悪いのか理解できない。それでは,部下の不満がたまるんだ。

坂本: だから,細かいルールを決めていたのか・・・

芦屋: 基本的には,決めるルールは仕事を上手く進めるためのノウハウだと思ってほしい。例えば,僕は他人を説得するための文章で「できるだけ簡単に他人を説得できる理由を書け」と言うよね。これが君たちとのルール。誰もが納得できる理由が一つあればいい。2つも3つあると,かえってうそ臭い。こうやって,説得できる可能性が高い仕事のやり方を,誰でもできるようにルール化して部下である君たちと共有化しているんだ。

坂本: 非常に分かりやすいです。

芦屋: 4番目は,
(4)指導の際には何が悪いのか,良いのかを納得させる説明をしなくてはならない。
これは分かると思う。今,君に話していること。僕がどう考えて,何をしているのか。その理由を君にできるだけわかりやすく説明しているつもりなんだ。ルール化の話もそう。はじめにルール化していれば,守ったか,破ったか客観的に判断できる。当然,ルール化していない新しいことも発生するけど,「君の考えは,こういうケースで問題がある。だからやめた方がよい」という具合に,具体的に何にリスクがあるか,どんな問題が起こりそうかをわかりやすく説明し,それで良い悪いの判断をする。そうしないと,部下は何がよくて,何が悪いのか分からないから,次回以降に改善できない。当然,上司が常に正しいとは限らない。それでも,上司は判断し,結果に責任を持たなくてはならない。「分からない」じゃ済まないのが上司なんだよ・・・「分からない」と判断を放棄すれば,やはり他の管理職から批判されるから,これも後ろ指をさされる駄目行動と見なされる。

坂本: これも怖いな・・・

芦屋: 最後は,
(5)仕事上の思想を持たせるようにしなくてはならない。
僕はこれが一番大事だと思う。つまり,大きな思想をもって仕事を考えてほしいということだよ。自立した仕事をするということ。ミッションを正しく捉える力を身に付けるように指導しなくてはならない。

坂本: 思想やミッション・・・ですか,少し分かりにくいですね。

芦屋: これができていないといちいち細部まで指示しないと仕事が進まない。例えば,提案書を部下に書いてもらう場合,自立していないと,すべてに指示が必要になる。訴求力をもった言葉はどう書くのか,文字の大きさや,分かりやすさはどうするのか。こんなことをすべて指示していたら上司は破綻する・・・そうではなく,常に「お客さまはどうしたら読んでくれるのか」,「分かりやすい文章とは何か」「見やすい文字の大きさはどれくらいか」という仕事の目的を考えて,提案書を手段とするように考える指導をしなくてはいけない・・・これも,毎日5分でもいいから,会話をして,上司の考えを徹底して理解させることが必要なんだ。坂本,部下も大変だと思う。だけど,上司も大変だ。どうせ,部下も上司も大変なら,最も効率的な仕事のやり方を選んでほしい。それが,君の部下を楽にすることになるんだよ。

5分で人を育てる技術 (22)“はじめて部下を持つ人"への5つのアドバイス | 日経 xTECH(クロステック)より引用

 

この上司の方が言っていることは、実に正しいと思います。コラムなので敢えてこういう書き方をされておられることもわかります。

しかし、現実でも同じようなことをやっておられる方は多くいます。典型的な上司9:部下1のパターンです。

 

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話を聞くのが難しいなと思われる方は、いきなり上司1:部下9で、というのは難しいので、部下と話すときのフェーズを前半と後半に分け、前半はとにかく聞くことに徹して、部下から話・悩みを引き出すための質問以外は一切しない、後半は普通にアドバイスをする、というやり方をおすすめします。

 

ただ、もちろん前半の傾聴フェーズが1分で終わり、後半のアドバイスフェーズが15分とかになると意味がないので、時間はせめて半分ずつくらいにしてみてください。

 

技術③:部下を変えようとしない

 

部下といい関係を築けていない管理職の共通点の1つに、「部下を変えようとする」ことが挙げられます。

 

もちろん、「部下が問題を抱えているんだから、部下が上司のアドバイスを聞き入れて変わるのは当たり前」と思われるのはわかります。

しかし実は、部下を変えようというアプローチは、特に今の若い世代には有効ではありません(おそらく昔から有効ではなかったと思っています)。

 

どんなアドバイスも、受け入れられるタイミングがあります。上司の仕事は、部下が自分で問題に気づき、その問題の原因に気づき、アドバイスを受け入れて解決策を実行できる「環境を用意するところまで」です。それを超えて、上司のタイミングで部下に解決策を実行させるということを繰り返すと、部下はどんどん自主的な問題解決ができない人材になっていきます。「上司が部下を変える」「問題がある部下は変わって当然」というスタンスは、長い目で見て問題を大きくします。

 

変わる環境を用意しても変わらないのであれば、もうその仕事からは外して、他のことに挑戦させる、という方が建設的です。

 

30歳を過ぎれば、人はなかなか変わりません。特に仕事に対するスタンスというものは変わりにくいので、そこを変えようとするのはお互い疲れます。人を変えようとするのは、相手に変わってもらうことを期待するからです。

 

この「他人への期待」というのは、実は結構厄介です。他人に期待することは一見何も問題ないどころか、むしろいいことであるように見えるからです。

 

しかし、他人への期待が裏切られると、期待した人は「自分の期待に応えない相手が悪い、期待通りに変わるべきだ」と考えてしまいます。相手を変えようとする人は、結局自分が勝手に期待して勝手に裏切られているだけなのに、変わらない相手が悪いと考えてしまうのです。ここからパワハラモラハラが始まります。

 

部下の成長に、期待はいりません。部下の悩みを聞き、一緒に原因と解決策を考え、部下のタイミングとやり方で試行錯誤できる環境だけを用意して、「これで変わってくれたらいいな」という願望を持つくらいがちょうどいいし、長い目で見ると実は最も効率的な成長の仕方だと思います。

 

まとめ:部下の成長を引き出すために

 

自分からアドバイスしようという姿勢を捨て、よく悩みを聞いて、部下が求めていることだけ答え、実行できる環境を用意するということを守っていれば、自然と部下は変わってくれます。とにかく相手が変わる環境だけ用意して、変わるタイミングを待つ、というのが、上司のあるべき姿勢だと思います。

 

なお、傾聴する技法の1つとしてアクティブリスニングというものがありますので、興味がある方は調べてみてください。

 

私にとってアドバイスをするというのは、相手に適切な本を選んであげて、贈るイメージです。相手がいつその本を読むか、本を読んで何をどう変えるかは相手次第ですし、読まなかった、変わらなかったからといって責めるべきではありません。

 

もちろん、合意した目標があるにもかかわらず、いつまでも改善されないのであれば、他の仕事を任せるなどの対策を取る必要はありますが、これくらいのイメージの方がお互いストレスなく、いい関係を築けるのではないかと思います。

 

私のおすすめのマネジメントの仕方の1つですが、もし合いそうなら試してみてください。